まつ毛美容液の使用によって「目が腫れた」などの『健康被害』の報告が相次いでいます。
化粧品開発者の我々からすれば、これは、起こるべくして起きた問題であり、今の化粧品業界の抱える問題点を浮き彫りにさせたとも言えます。
そこで今回は、まつ毛美容液の健康被害について、現役化粧品開発者だから知っている裏側をご紹介します。
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
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まつ毛美容液による健康被害
近年、『まつ毛美容液』の使用によって、目のまわりが腫れるなどの健康被害が相次いでおり、国民生活センターが注意を呼びかけています。
国民生活センターによると、まつ毛美容液を使い、かゆみや腫れなどがあったなどの報告が、2015年以降、381件よせられています。中には、角膜が傷つき、手術をしたという『重篤なケース』もあります。
国民生活センターの調査によると、「① 化粧品であるにもかかわらず、育毛効果をうたった商品があった」「② 頭髪への使用を限定した医薬部外品の有効成分として承認された育毛剤を、まつ毛美容液に配合していた」事実が確認され、これが、目もとが腫れるなどの健康被害につながったと考えられます。
そもそも今回の問題は、まつ毛美容液を販売するメーカーが、知識・技術が低すぎるにもかかわらず、売り上げ至上主義で、過度な宣伝を行ったことが一番の原因です。
まともな化粧品会社、化粧品開発者であれば、これらまつ毛美容液の問題点は、容易に分かる事ですから、同じ化粧品に関わる者として、これらメーカーに対して強い憤りを覚えると同時に、非常に恥ずかしく思います。
次項では、今回の健康被害が何故起こったのか、『問題点』を詳しくご説明します。
問題点1:知識・技術が伴わない化粧品メーカーの存在
そもそもまつ毛美容液に育毛効果は認められていません。育毛は、頭髪に限定した医薬部外品にのみ認められた効果効能であり、まつ毛に使用のモノで、しかも化粧品に、育毛効果などあり得ません。
これは、化粧品に関わる者であれば常識であり、この事実を知らずにまつ毛美容液を販売するメーカーの知識・技術レベルは低いです。
また、この事実を知りながらも、育毛効果を宣伝するメーカーは、コンプライアンス的に大問題であり、このようなメーカーは、化粧品を扱う資格はありません。
さらに、頭髪への使用を限定した、医薬部外品の有効成分として承認された育毛剤を、まつ毛美容液に配合していた事実も認められたという事で、これは論外ですが、まつ毛美容液などの目もと用コスメの『安全性』を評価出来ない事に大きな問題があります。
2001年の全成分表示制度の導入以降、化粧品会社は比較的自由に様々なことが出来るようになりました。例えば、それまでは化粧品に配合出来る素材(原料)に限りがありましたが、様々な素材を配合出来るようになりました。
これによって、素材開発に拍車がかかり、数多くの『機能性素材』が誕生し、結果、現在の化粧品の技術革新に大きく貢献したと考えられます。
しかし一方で、重篤な『安全性トラブル』(肌トラブル)も起こっています。2001年以前は、厳しい安全性基準をクリアした素材のみ、配合が許されていましたが、2001年以降、極論を言えば、安全性基準をクリアしていなくとも、安全性試験を実施していなくとも、『化粧品会社の責任』であれば、配合が出来るようになったのです。
これによって起きたのが、『悠香の茶のしずく事件』です。詳細は以下をご覧ください。
当然、大手化粧品会社は、『自社の安全性基準』を持っていますから、重篤な安全性トラブルが起きる可能性は低いですが、訳の分からないメーカーであれば、そもそも安全性を評価する技術を持っていませんから、安全性基準は設けていないでしょう。
しかも、目もとの周りなどの『粘膜』は、皮膚が薄く、刺激を感じやすいため、通常は、粘膜に使用される化粧品とそうでない化粧品では安全性基準は異なります。
大手化粧品会社であれば、安全性を評価出来るだけの十分な技術を有していますから、粘膜使用とそうでないモノなど、使用部位に応じた自社の安全性基準を設定し、化粧品を開発しています。
これが、まともな、本物の化粧品会社の行動です。
問題だらけのまつ毛美容液を開発するメーカーの知識・技術は低いですから、安全性への配慮に欠け、売る事だけを考えて、欠陥だらけのまつ毛美容液を開発したのだろうと思います。
ご自身を守るためにも、このようなコスメの使用は絶対にやめるべきです。
問題点2:化粧品業界団体への未加入メーカーが多い
先日、このような文書が私の所属する化粧品会社に来ました。
これは、『日本化粧品工業連合会』から、今回のまつ毛美容液の健康被害に対し、会員である各化粧品会社に送られた文書です。
ここには、今回の問題の経緯や、育毛効果を宣伝しない事、育毛剤を配合しない事などの『指導』が記されています。
日本化粧品工業連合会とは、日本における『化粧品の業界団体』です。通称、『粧工連』と言います。
日本の化粧品では、粧工連の果たす役割が大きく、例えば、日焼け止めのSPF, PAの測定法や表示法は、国ではなく粧工連が決めて、各化粧品会社に指導しています。
つまり、粧工連は、化粧品に関する様々な事を指導する立場にあり、会員である各化粧品会社はその指導に従っています。
しかし、世の中には、粧工連に加入していない化粧品会社はたくさん存在します。加入は義務ではありませんから、未加入の化粧品会社には、このような指導はいっていません。
おそらく、問題のあるまつ毛美容液を発売するような化粧品会社は、粧工連に加入していませんから、このような文書で指導しても無意味でしょう。
このように、粧工連への未加入メーカーがいまだ多く存在するのが、化粧品業界最大の問題であり、これでは、正しい指導が行き渡りません。
未加入メーカーは好き勝手やりますから。
やはり、最終的には行政処分を下すなど、国による指導が必要不可欠だと思います。
まつ毛用美容液を使う際は、十分ご注意ください。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません