日焼け止めコスメは、紫外線吸収剤配合のモノを選ぶべきか?
この記事では、現役の化粧品開発者の私がプロの視点で、日焼け止めに配合される紫外線吸収剤のメリット・デメリットについて解説します
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
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紫外線吸収剤の「メリット」・「デメリット」は?
紫外線吸収剤の「メリット」
紫外線吸収剤(吸収剤)のメリットは『2つ』あります。
まず1つめが『価格』です。
吸収剤の「原料価格」は、散乱剤に比べ、『圧倒的に安い』です。
勿論、高価な吸収剤も存在しますが、最もよく用いられる吸収剤「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」は、機能性を考慮すると、非常に低価格で、コスパに優れています。
原料価格が安いということは、化粧品メーカーにとっては『利益拡大』という利点がありますが、ユーザーの皆様にとっても大きな利点があります。
当然のことながら、コスメの原材料費は、コスメの『販売価格』に反映されますから、低価格な吸収剤を配合し、品質を落とすことなく原材料費を抑えることが出来れば、ユーザーの皆様にとって、お求めやすい販売価格が実現します。
「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」の、品質を落とすことなく低価格が実現出来た背景には、その圧倒的な『生産量』があるでしょう。
海外メーカーは散乱剤配合には消極的ですが、吸収剤は積極的に配合してきます。
散乱剤は『日本』がメインに対し、吸収剤は日本を含む『海外』で使われていますから、使用量が全く違います。使用量が多ければ当然、生産量も多いですから、これが大幅なコストダウンにつながっているのでしょう。
吸収剤の2つめのメリットが『仕上がり・使用感』です。
日焼け止めでは、『白浮き』という言葉をよく聞きます。これは、「日焼け止めを塗ったら白くなった」という意味で、原因は『散乱剤』です。
散乱剤は『白色粉末』ですから、白浮きしやすい傾向にあります。
勿論、処方化技術で白浮きを抑えることは可能ですが、『高度な技術』が必要のため、どのメーカーでも出来ることではありません。
一方、吸収剤は『油(オイル)』もしくは、油溶性の『粉末』です。
※水溶性粉末もありますが、種類は少ないです
「油」・「油溶性粉末」ですから、散乱剤のような『白浮き』はしません。「日焼け止めは白くなって嫌!」という方に好まれる、『白浮きしない仕上がり』です。
また、散乱剤は粉末ですから、SPF・PA値が高く、散乱剤を高配合している日焼け止めは、粉由来(散乱剤由来)の『乾燥』が課題となります。
吸収剤は「油」ですから、乾燥はせず、うるおい実感が高いです。ニベアを筆頭に、『ジェルタイプ』の日焼け止めが人気ですが、これは、「油」である『吸収剤』だからこそ実現可能な『使用感』です。
紫外線吸収剤の「デメリット」
吸収剤の『デメリット』は、『光安定性』と『肌刺激性』です。
まず『光安定性』に関しては、昔は吸収剤の光安定性なんて全く無視されていました。しかしこれは、ユーザーにとって大変不利益なことですから、10年位前から、ヨーロッパを中心に、吸収剤の光安定性の悪さが叫ばれるようになりました。
吸収剤は、紫外線を吸収して、紫外線ダメージから肌を守ります。紫外線を吸収した際、非常に『分解』しやすいため、吸収剤は光安定性(紫外線安定性)が悪いと言われています。
吸収剤が分解すると、紫外線を吸収する能力がなくなりますから、表示SPF, PAの効果は全く期待出来ません。「日焼け止めを塗ったのに焼けた!」という事態につながります。
ですから、日焼け止めコスメ、特に吸収剤配合のモノは『塗り直し』が必要です。
今の日焼け止めコスメには、注意表示欄または使用方法欄に、「こまめに塗り直してください」という文言が表記されているはずです。この文言の背景には、吸収剤の『光安定性の悪さ』があるのです。
また、もう一つのデメリット『肌刺激性』についてですが、以下記事でも論じたとおり、吸収剤は『安全』ですが『肌刺激性のある成分』です。
通常のコスメに配合される油は、分子量が大きいため、油に含まれる微量成分(栄養素など)が肌に浸透することはあっても、油そのものは肌に浸透しません。
油は肌に浸透せず、肌表面に留まり肌上に膜を作ることで、外部刺激から守ったり、肌内部の水分蒸散を防いだりします。これが、油が『エモリエント剤』や『バリア膜』と呼ばれる所以です。
一方、吸収剤としての油は、分子量が小さいため、肌に浸透します(角層まで)。
テープストリッピングによって、吸収剤(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)が角層まで浸透しているデータを何度も見たことがあります。
※ポリシリコーン-15のように、高分子量の吸収剤も存在します
このように吸収剤は、安全ではありますが肌刺激性のある成分です。
しかしだからと言って、「吸収剤を避けるべき!」と言っている訳ではありません。
吸収剤が角層に浸透すると言っても、そもそも、肌には『バリア機能』が備わっていますから、重篤な肌トラブルにつながることは考えにくいです。
また、吸収剤の肌刺激性以上に、紫外線による肌ダメージの方が深刻ですから、日焼け止めコスメの「肌刺激性」・「使用感」は二の次、という考え方もあります。
ですから、吸収剤に弱い方や、過去、吸収剤による肌トラブルの経験がある方を除き、それほど心配される必要はありません。
おわりに
いかがでしょうか?
紫外線吸収剤のメリットは、
『価格』・『仕上がり・使用感』
一方、デメリットは、
『光安定性』・『肌刺激性』
「光安定性」に関して補足すると、処方化技術で光分解を抑制することは出来ますし(100%ではない)、現在のSPF, PA測定法は、吸収剤の光安定性(光分解)を考慮した測定法です。
ですから、商品に表示されているSPF, PA値は信頼がおけるものなので、ご安心ください。
ただし、表示SPF, PA値はあくまで目安であって、表示されている紫外線防御効果を最大限得るためにも、日焼け止めコスメは、たっぷりの量を、こまめに塗り直すようにしてください。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません