※この記事は2024年に再編集しています
鉱物油フリーを訴求するコスメが増えてきました。そもそもコスメは、
鉱物油フリーの方が良いのか?
鉱物油フリーは肌に優しく安全なのか?
コスメは鉱物油フリーであるべきなのか?
この記事では、現役の化粧品開発者の私がプロの視点で、これら疑問にお答えします。
本記事の内容
- 鉱物油フリー化粧品のメリット、デメリットを現役の化粧品開発者が解説
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
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鉱物油とは?
石油は大切な資源です。
石油からはプラスチックや工業製品など、様々なモノが作られます。その際に出る油(廃油)を精製し、不純物を取り除いた油を鉱物油と言います。
つまり、石油由来の油です。よく、植物由来の油と対比して使われます。
その昔、石油が分類学上、「鉱物」扱いされていたため、石油由来の油=鉱物油と言われています。ミネラルオイル・パラフィン・ワセリン・セレシンが、コスメによく配合される鉱物油(石油由来の油)です。
一度、ご自身がお使いのコスメの全成分を見て、これら油が配合されているか確認してみてください。
コスメは鉱物油フリーの方がいいのか?
本題に入りましょう。
何故、化粧品には鉱物油が配合されているのか?
そもそも、何故、コスメには鉱物油が配合されているのでしょうか?
その理由は、価格と供給です。
お肌のうるおいを閉じ込めたり、メイク汚れを落としたりする油は、化粧品にとって必須成分です。この必須成分、当然、化粧品メーカーは、自社の利益を確保するために、原料価格が安い油を使いたがります。
企業ですから、原価を抑え、ユーザーにお求めやすい価格で化粧品を提供するという意味で当然の行為です。
鉱物油は、植物油に比べ、圧倒的に原料価格が安いです。価格面で圧倒的に有利なので(安い)、鉱物油は化粧品に配合されます。
価格面の他に、供給面があります。
鉱物油は石油由来ですから、安定的に供給されます。石油の産出がなくなれば、供給面で大問題になりますが、当面、そんなことはありえないでしょう。
この安定供給、化粧品原料にとって、非常に重要です。
供給面で課題が生じて、原料が手に入らなくなることは、メーカーにとって大変な損失です。
原料が手に入らない ⇒ 化粧品の製造が出来ない ⇒ ユーザーにコスメをお届け出来ない ⇒ 販売機会の喪失 ⇒ 売り上げ減・利益減
そのコスメを使いたいと思ってくれているユーザーにお届け出来ないことは、絶対にあってはならないのです。ですから、化粧品メーカーは、原料の供給面を大変重要視します。
植物油、特にオーガニック認定の植物油は、収穫量が天候で左右されますから、供給面で課題がある原料の一つです。
さらにその中でも、精油は最も供給面で課題がある原料の一つでしょう。天候により収穫量が変わるだけでなく、香りにも変化が生じます。「合成原料」も供給面に注意しないといけません。よく配合される原料は特に要注意です。
1-3BGは非常によく配合される合成原料ですが、もし、原料メーカーの工場が火災などのトラブルを起こし、供給がストップした場合、化粧品メーカーは大打撃を受けます。
1-3BGのように、よく用いられる原料に関しては、複数の購入ルートを確保するのが一般的です。
これを複数購買と言いますが、万一、Aという原料メーカーの工場にトラブルがあってBGの供給がストップしても、複数の購入ルートを確保しておけば、Bという原料メーカーのBGを使うことが出来て、化粧品メーカーの製造には影響を与えません。
原料供給は、非常に重要で、化粧品メーカーは万一不測の事態が起こったとしても、原料を確保できるよう様々な策を講じているのです。
このように、コスメに鉱物油がよく用いられるのは、決して鉱物油がお肌に良いというわけではなく、価格が安く、供給が安定しているからです。
鉱物油のメリットは?
鉱物油のメリットは何でしょうか?
鉱物油は植物油に比べ、水分蒸散抑制効果が非常に高いです。
お肌からの水分蒸散を防ぎますから、言い換えると、鉱物油は植物油に比べ、エモリエント効果が高いと言えるでしょう。
アトピーの方や、顕著な乾燥肌の方にワセリンが有効なのはこのためです。
鉱物油のデメリットは?
ではデメリットは何でしょうか?
鉱物油のメリットは高い保護性でしたが、これ故に、一度、お肌の上で膜を作ると、なかなか落とすことが出来ません。
植物油に比べ鉱物油は、クレンジングで落としずらいという点がデメリットと言えます。
しっかり落とさないと、お肌で酸化して(刺激性のある物質に変化する)、肌トラブルの恐れがありますし、毛穴に詰まるとニキビの原因ともなり得ます。
これは植物油にも言えることですが、しっかりクレンジングして完全に洗い流すようにしてください。
あと、ネットを見ると、鉱物油はお肌に浸透せず、植物油はお肌に浸透するから、植物油が良い、という表現を多く目にします。
厳密にいうとこれは間違いです。
鉱物油にしろ植物油にしろ、化粧品に用いられている大部分の油は分子量が大きいため、お肌に浸透しない!
植物油にはオレイン酸やパルミトレイン酸、ビタミン類といった栄養成分が含まれているケースが多く(全成分には表示されません)、これら成分がお肌に浸透して、何かしらの効果を発揮することはあります。
石油由来である鉱物油には、これら栄養成分は一切含まれておりません。
ですから、
鉱物油 ⇒ お肌に浸透しない ⇒ 効果が得られない ⇒ お肌に良くない
植物油 ⇒ お肌に浸透する ⇒ 効果が得られる ⇒ お肌に良い
このような誤解を招いているのです。
確かに植物油には、脂肪酸類、ビタミン類といった栄養成分が含まれていることはありますが、全成分表示に出ないくらい微量ですし、どれだけお肌に良い効果を及ぼすかも不明です。
鉱物油、植物油に限らず、化粧品における油の最大の役割はエモリエントであることをお忘れにならないようにしてください。
化粧品は鉱物油フリーの方がいいのか?
コスメは鉱物油フリーの方がいいのか?
でも世の中には鉱物油フリーのコスメがたくさんあって、鉱物油はお肌に良くないという印象があります。
これは何故でしょうか?
それは、鉱物油はお肌に良くないというイメージが先行しているからです。
コスメは主に女性がお使いになるものです。ですから、イメージが非常に重要です。
実際、2000年初頭、BSEが問題になった時、日本からアメリカ産の牛肉が消えました。これによって大きな損失を受けたのが、食肉業界です。しかし、化粧品業界でも牛由来の原料がすべて消えました。
化粧品はお肌に使うもので、食べるものではありません。万一(こんなことは絶対あり得ませんが)、BSEに感染した牛由来の原料を配合した化粧品を使っても、重篤な問題にはなりません。しかし、牛=危険というイメージがついてしまったため、牛を他の動物に変えたり、植物に変えたりと、原料メーカー、化粧品メーカーは大変な労力を要しました。
このように、配合原料を全て変えるほど、化粧品にとってイメージは最重要なのです。
では、鉱物油はお肌に良くないというイメージを作っているのは何でしょうか?
それは、昨今流行りのナチュラル系コスメです。
ナチュラル系コスメにとって、石油系や合成系は悪ですから、これらを攻撃し、ナチュラル原料のお肌への良さを訴えるわけですね。
しかも、ブームにも乗って、ナチュラル系コスメの勢いはすごいですから、鉱物油はお肌に良くないというイメージを作るには十分でしょう。
ただし、天然物(ナチュラル)の漆がかぶれるように、ナチュラル系(天然系)だからと言って、安全性が高いというわけではないのも事実。
鉱物油はお肌に良くないというのは間違いですし、鉱物油であろうが植物油であろうが、お肌に対する安全性の高さに変わりはありません。
おわりに
いかがでしょうか?
鉱物油フリー化粧品についての議論は、コスメ業界内外で活発に行われていますが、その真実は一体どこにあるのでしょうか。
本記事では、化粧品開発者としての豊富な経験をもとに、鉱物油のメリットとデメリットを公平に解説しました。鉱物油が化粧品に広く用いられる理由は、その安価で安定した供給にありますが、一方で、その使用には落としづらさや栄養成分の不足といったデメリットも存在します。
しかし、鉱物油フリーが肌に優しいという一般的なイメージは、必ずしも全ての肌質や条件に当てはまるわけではありません。大切なのは、コスメ選びにおいてイメージに流されず、自身の肌質や信念に合った製品を選ぶことです。鉱物油に対する理解を深め、自分にとって最適なコスメ選びをするための一助となれば幸いです。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません